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日本語の美しさ(高杉良の小説から)

投稿日:2014年2月13日 更新日:

最近、従業員80名の町工場だった日本触媒化学工業(現日本触媒)を東証一部上場の一流化学企業に育て上げた、八谷泰造社長を実名で小説にした『炎の経営者(高杉良)』を読みました。
八谷社長は糖尿病を患いながらも、その命が尽きるまで経営に情熱を燃やし、その最期は幹部会前の社長室で書類に目を通している時に心筋梗塞で亡くなるという壮絶なものでした。
この小説を読んで、八谷社長の経営にかける執念に、強い畏敬の念を覚えたのはもちろんですが、もう一つ改めて感じた事があります。
それが、日本語の美しさ、奥深さ、含蓄です。
物語の最後に、社葬で弔辞が読まれるシーンがあるのですが、その弔辞を自分で声に出しながら読んでみると、この小説を読むまで知らなかった八谷社長と自分の間に、弔辞に出てくるような思い出があるかのように感じ、言葉に詰まるほど弔辞を読んでいる人に感情移入してしまいました。
その一部を抜粋します。
(後任の北野精一社長の弔辞から)
社長!「春を待つ」という社内報の随筆が絶筆となりましたが、その御心境であるその春が、もう訪れてきましたのに、社長はなぜもう暫くお待ちになれなかったのでしょうか。私たちの最も畏敬する、私たちの最もかけがえのない社長が幽明境を異にされるとは、誠に残念でなりません。ご遺族の悲しみは勿論でございますが、全社あげて唯々、哀悼、痛惜の情に堪えません。
(中略)
力強い実行力と、まれに見る経営感覚をもっての御偉業を偲ぶとき、万感交々、胸に迫って、惜別の言葉さえ見当たりません。時には厳しい社長としてお訓し下され、時には慈父の温かさをもって、私どもに接しお導き下さいました。もうお逢い出来ないというこの無常観が誠に恨めしゅうございます。
(中略)
社長、どうか安らかに御瞑目下さい。そしてどうか安らかにお休みください。長い間の御恩を心より感謝し、これをもってお別れの言葉といたします。

 
(新日本製鉄 永野重雄会長弔辞から)
謹んで、故八谷泰造君のご霊前に申し上げます。
八谷君、君が突如として、しかも執務中に亡くなられたと伺った時、私は驚きのあまり、俄かには君の死が信じられなかったのであります。
生者必衰、会者定離は人の世の定めとは申すものの、私より年の若くて健康な、そして私の最も信頼する心の友を、こんなにも早く失うことになろうとは、神ならぬ身の知るすべもなく、誠に痛恨極まるところを知りません。
(中略)
全身全霊を事業に捧げてきた君のこと故、あるいは職場で殉じたことが本望であったかも知れません。しかし、君がこよなく愛した事業のためにも、また日本の産業界のためにも、まだまだ君には大きな期待が寄せられていたのであります。しかるに天は君に齢をかさず、今や幽明境を異にし、再び君の温容に接するに由なく、唯言い知れぬ淋しさを如何ともすることができません。ましてや、慈父を喪われたご遺族のご心中は拝察するにあまりあります。
君との思い出は名残りつきませんが、こうして君の遺影を前にして誠に感無量、尽すべき言葉を知りません。唯ただ、わが思いが天上の君に達すればと、念願するのみであります。願わくば、どうぞ安らかにお眠り下さい。
引用終わり=========
この社葬にいたるまでの経緯を読んでいないと伝わりにくいかも知れませんが、私はお風呂の中で、この弔辞を声に出して読んでいると、本編で八谷社長と弔辞を読んでいる人とのエピソードが、まるで自分と八谷社長のエピソードのように感じ、何度も言葉が詰まりました。
これは、小説自体に感情移入しながら読んでいたということもあると思いますが、文章表現によるものも大きかったと思います。
私は英語が得意でないので、はっきりとは言えませんが、たとえば、「幽明境を異にされる」や「安んじて逝かれた」、「職場で殉じた」などの言葉は、英語であれば、
「You are dead」
で表現されてしまうのではないでしょうか。
「哀悼、痛惜の情に堪えません」や「神ならぬ身の知るすべもなく、誠に痛恨極まるところを知りません」、「唯言い知れぬ淋しさを如何ともすることができません」などは、
「I’m very sad」
となってしまうのではないでしょうか。(違ったらすみません・・・)
英語圏の人たちのジェスチャーや声の抑揚が大きくて、日本人はどちらかというとジェスチャーが少なく、淡々と話すのも、ここに起因しているような気がします。
この思いや感情を伝えるための美しい日本語や、豊かな語彙があるからこそ、私たちは大きなジェスチャーをせずとも自分の思いを伝え、相手の思いを受け取る事が出来ていたのだと思います。
今後、グローバル化していく世界で、私も英語が苦手だなどと言っていられなくなると思いますが、それでも日本語は日本語として、その素晴らしさを守っていかなければならないなぁと思っています。
そう言えば韓国語はかなり日本語に近いみたいですが、韓国語だとどうなんでしょう。

 

紹介した書籍

炎の経営者

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